6月 第5週/7月 第1週

6/26(月)
院試の口頭試験で大きなミスをして試験に落ちる夢を見た。実際には受かっているので現実ではないことは確かなのだが、夢現の状態の30分ほどは本当に落ちたと思い込んでしまい、かなり心臓に悪かった。結局早起きなどできず、昼頃大学に向かう。途中、スーパーのイートインで昼食を摂りつつ読書会の準備をする。
15時ごろ、後輩と空き講義室で独語の読書会をする。その後後輩を連れて売布神社の映画館に映画を見に行く。今日は『ザ・ホエール』を観た。恐ろしく暗い映画であり、そして場面の変化は(回想でほんの少しだけ登場する海辺以外)無く、全てが主人公チャーリーの家で完結するという作品で、一歩間違えばひどく退屈な映画になる作りをしている。しかし、ゆっくりと登場人物の過去や人間性、物語の背景が見えてくる作りのおかげで飽きることはなかった。本作ではメルヴィルの『白鯨』、そしてそれについて娘が昔書いた感想文が大事な役割を果たす。その感想文は、まさにこの物語を暗示しているように思う。感想文の中に、「鯨の描写の退屈な章にはうんざりさせられた。語り手は自らの暗い物語を先送りする」という一節がある。チャーリーの過去の話は徐々にしか明らかにされず、退屈するかしないかギリギリのラインの描写が2時間にわたって続く、この映画の筋とも合致する。本作にわかりやすい救いは存在しないし、実際それでいいのだとも思う。心に残る部分の多い映画だった。
焼き鳥屋と行きつけの居酒屋で飲んだのち、深夜に帰宅する。日本酒が美味しかった。

 

6/27(火)
2時間ばかりの短い睡眠ののち、9時頃家を出る。昨日に引き続き映画館に向かう。ずっと観たいと思っていた『TAR』の上映がもうすぐ終わるのだ。
作品前半はとても良い出来だったと思う。ミステリテイストの作りは引き込まれるし、時間をかけて丁寧に描かれた背景も面白いし、ところどころに散りばめられた音楽ネタも楽しい。そのぶん、後半は唐突かつ乱暴に思えた。「アジアでゲーム音楽を演奏する」というラストは、時たま見かけるような「アジアや商業音楽への蔑視」ではないと思う。むしろ、一部のそう思った観衆に対し、それはターが物語冒頭にジュリアード音楽院で語っていたような「音楽の外の要素で作品を好き嫌いする態度への危険視」と紙一重であることを警告しているように思えた。しかし、であるならばマーラー5番の演奏会での事件以降の推移をもっと細かく描いて欲しかったと感じてしまう。
昼過ぎに大学に向かい、学部の自習室でチェコ語の勉強をしたのち、ゼミに出る。
ゼミの後、図書館で研究をしてから帰る。

 

6/28(水)
本当に最近はよくない。今日も11時台にようやく起きた。昨晩はそれなりに早く寝られたのに。12時半頃大学に向かい、昼休みはチェコ語の勉強に充てる。3限にチェコ語の小テストがあるのだ。
小テストは無事終えた。動詞の活用や名詞の語尾変化を覚えるために、まるで英語を習う中学生やドイツ語を学ぶ大学1年生のように只管に書いて読んでを繰り返す勉強をしていると、懐かしさすら感じられる。
その後、用事で関西空港まで行く。行きはラピート、帰りははるかに乗るという贅沢をした。
22時頃帰宅。家に福岡土産のラーメンがあるので、近いうちに美味しく食べるためにチャーシューを仕込む。

 

6/29(木)

結局生活習慣は崩れてしまったようで、今日も昨日と同じくらいの時間に起きる。昨日仕込んだチャーシューを使ってラーメンを作る。なるほど、おいしい。自作した甲斐があったというものだ。

16時頃、家を出る。駅構内のタリーズで時間をつぶしたのち、後輩と落ち合って大阪市内に出る。いずみホールで行われるオルガンの演奏会に行くのだ。

オルガンの生演奏を独奏作品で聴くのは実は初めてだったのだが、オリヴィエ・ラトリーの弾くオルガンは実にワクワクとさせるものであり、ホールの音響もよく、たいへん満足した。とくに後半のパストラーレとトッカータとフーガ「ドリア調」はある種の凄みすら感じさせる素晴らしいものだった。

即興演奏のもとの主題はドリカムだったらしい。

餃子を食べたのち帰宅する。

 

6/30(金)

低気圧のせいだろうか、体調が芳しくなくほぼ一日を寝て過ごしてしまった。781系電車が脱線・転覆する夢を見た。

夜20時頃スーパーに買い物に出る。1日に1回でも外に出れば、まだ生きている実感がわくというものだ。

 

7/1(土)

午前中にゆっくりと起きる。午後からのバイトの前に洗濯を済ませる。

アルバイトは多少時間が長引き疲れたが、滞りなく終わった。帰りに松のやでカツとエビフライの盛り合わせ定食を食べて帰る。

 

7/2(日)

会期が今日までだということをすっかり忘れていた、京近美の展覧会に行く。河原町駅から地上に出ると湿気を含んだ熱気が押し寄せる。何もしなくても肌がべたつくような空気の中を、これから30分ほど歩くことになるのだ。右後ろに東華菜館、左手前にレストラン菊水、右手前に南座を臨みつつ四条大橋を渡り、川端通を北に向かう。途中で祇園のほうへと方向を変え、そこからは白川に沿って歩いていく。川べりの柳のおかげで多少は暑さもましに思えてくる。川伝いに進んでいけばやがて岡崎公園にたどり着く。

「Re: スタートライン」展は1960~70年代に京近美が行っていた展覧会を検証することを目的にした展覧会だった。戦後日本美術を振り返る意味でも、当時の芸術家と美術館の関係、そしてアートシーンを再考する意味でも面白い展覧会だった。図録も手が込んでおり、当時の展覧会の様子や冊子、新聞記事等をまとめたドキュメントとして非常に価値のあるものに仕上がっていた。今展覧会の様子や芸術家・専門家の講演録を収録した第2巻も企画されているとのことで、かなり気合の入った企画だと感じた。近年戦後日本美術を扱った展覧会も増えていることだし、このような作品や作家のみならず当時のアートシーンも含めて検討し、それをドキュメントの形で残すような展覧会が、今後も行われれば嬉しいと思った。そして、明治期の初期日本西洋画や2,30年代の日本のアヴァンギャルド、戦中期の戦争画等も同様の水準で再検証されれば……などと考えていた。

常設展を含めて3時間半ほど鑑賞したのち、美術館を出る。岡崎公園から二条通を鴨川方面に向かうと、ちょうど西に傾く太陽と向き合う形になり、暑さと眩しさに体力を吸われていくような感覚に陥る。阪急電車に乗るには遠回りな方向に進んでいるのには理由がある。ちょうど川端通と交わるあたりに、前から気になっていたポーランド料理を出すブックカフェがあるので、そこに寄ろうと思ったのだ。

感じのよいご夫婦が営んでいる、洒落た店だった。何も知らずに行ったのだが、ご主人の本業は経済史の学者であり、少々専門的な話も聞くことができたのは思いがけない喜びだった。地下は書庫になっており、専門書から文庫、漫画等の多様なコレクションを見せてもらえた。料理もおいしくいただいた。また近辺に来る用事があれば寄ってみようと思う。

19時半頃帰宅。明朝に洗い終わるように洗濯機をセットし、床に就く。